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神戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)11号 判決 1989年9月25日

原告

鹿 間 幸 一

被告

高 砂 市 長 足 立 正 夫

右訴訟代理人弁護士

後 藤 三 郎

坂 本 義 典

主文

一  被告が昭和五八年二月九日付けで原告に対してなした危険物給油取扱所変更不許可処分及び危険物一般取扱所設置不許可処分を、いずれも取り消す。

二  被告が昭和五八年二月九日付けで原告に対してなした危険物給油取扱所仮使用不承認処分は、無効であることを確認する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和三二年三月三一日被告から可搬式給油施設による給油場設置の許可を得ていたが、被告に対し、昭和四八年三月二八日、危険物の規制に関する政令(以下「本政令」という。)七条二項に定める書類を添付して、消防法一一条一項に基づき、地下タンクによる固定式給油取扱所に変更する危険物給油取扱所変更許可申請(以下「本件変更許可申請」という。)を、また、同月三0日、本件変更許可申請に対する許可処分後の給油取扱所内に設置する灯油専用の同法同条項による危険物一般取扱所設置許可申請(以下「本件設置許可申請」という。)及び本件変更許可申請に対する許可処分後の同法同条五項による危険物給油取扱所仮使用承認申請(以下「本件承認申請」という。)を、それぞれしたところ、被告は、同月三0日右各申請を受理し、昭和五八年二月九日本件両許可申請をいずれも不許可とし(以下、各許可申請に対応して「本件変更不許可処分」、「本件設置不許可処分」という。)、本件承認申請を不承認とし(以下「本件不承認処分」という。)、いずれも原告にその旨通知した。

2  本件変更不許可処分の違法性

(一) 本件変更不許可処分の理由は、本件変更許可申請に対し必要な審査をするため、被告は原告に対し、左記の書類の提出を再三求めたが、原告がこれを拒絶したので審理することができないというものである。

(1) 本政令七条二項に定める書類(昭和五七年一0月現在の作成に係るもの)

(2) 消防法一一条二項に定める「公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがない」ことの重要な判断資料としての隣接住民の同意書

(3) 高砂市環境保全条例三0条一項に基づく変更許可申請書

(二) しかしながら、原告は、本件各申請につき、右の書類を被告に提出すべき法律上の義務を負わないので、本件変更不許可処分は違法である。

3  本件設置不許可処分の違法性

(一) 本件設置不許可処分の理由は、同処分の前提となる本件変更許可申請を不許可としたことによるというものである。

(二) しかしながら、本件変更不許可処分は前叙のとおり違法のためその取消しを免れないから、本件設置不許可処分もまたその理由を欠き、違法である。

4  本件不承認処分の違法性

(一) 本件不承認処分の理由は、同処分の前提となる本件変更許可申請を不許可としたことによるというものである。

(二) しかしながら、本件変更不許可処分は前叙のとおり違法のためその取消しを免れないから、本件不承認処分もまたその理由を欠き、違法である。その違法性は、重大かつ明白である。

よって、本件両不許可処分の取消し及び本件不承認処分の無効の確認を求める。

二 請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。同2(一)、3(一)及び4(一)の各事実は認め、同2(二)、3(二)及び4(二)の各主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実(本件各申請、本政令七条二項の書類の添付各受理及び各処分)については、当事者間に争いがない。

二そこで、本件変更不許可処分の違法性について判断する。

1  請求原因2(一)の事実(本件変更不許可処分の理由)については、当事者間に争いがない。

2  本政令七条二項に定める書類は、原告が本件変更許可申請に際し被告に対し提出済みであることは右一項のとおり当事者間に争いがないのであるから、被告はそれを前提として再度原告に対し同書類(当時作成に係るもの)の提出を求めたことになる。その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三五号証によれば、被告が右再提出を求めたのは昭和五七年一0月であることが認められ、本件変更許可申請時である昭和四八年三月から九年半余の歳月が経過しているから、その間に右申請内容の変更、補充、追加等の必要が認められる場合もありうるので、その場合はその時点の状況に合致した添付書類を提出するよう原告に求めることは当然であるけれども、右申請内容の変更等の必要が認められない場合は右添付書類の再提出をする必要がないこともまた明らかである。原告が右添付書類の再提出をしなかったのであれば、そこには右申請時に提出した添付書類の内容に変更はない旨の原告の黙示の意思表示があったと認められるから、右時の経過により特定の事項につき当然添付書類の記載内容につき変更を生ずるはずである旨の主張のない本件変更不許可処分にあっては、被告としては、右申請時に提出された添付書類に基づいて必要な審理をなすべきであり、それは十分実行可能であったと言うべきである。されば、原告が右添付書類の再提出をしない場合必要な審理ができないという本件変更不許可処分の理由の一つは、根拠を欠く。

3  次に、被告は、原告に対し、隣接住民の同意書の提出を求め、その根拠として、消防法一一条二項に定める「公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがない」(以下「新設許可要件」という。)ことの重要な判断資料であるからと言う点について判断する。

右新設許可要件は、本件変更許可申請時である昭和四八年三月二八日当時には、消防法一一条二項に規定されておらず、昭和五0年法律第八四号(昭和五一年六月一六日施行)により新設されたものである。すなわち、右消防法改正により、本件変更許可の要件が加重され、被告はその加重された要件の審理のために必要であるとして隣接住民の同意書の提出を原告に求めているのである。一般に、行政は常に法律に適合していることを要するから、行政処分は、その処分当時の法律に準拠してなされるべきである(最高裁判所昭和五0年四月三0日判決民集二九巻四号五七二頁)。しかしながら、申請に対する行政庁の不作為について不服申立て(行政不服審査法七条)や不作為違法確認の訴え(行政事件訴訟法三条五項)が認められていることに照らせば、行政庁が警察許可の申請を受理したときは、一定期間に処分をなすべき旨の規定のない場合であっても、相当期間内に許可、不許可の処分をなすべき義務を負い、申請人はこれを求めることができるという法律上保護に値する地位を有すると言うことができ、従って、もし行政庁が相当期間内に処理すれば旧法を適用して許可すべきところを、不作為のまま放置し、その間法改正により許可の要件や基準が厳格化したためこれを理由に不許可処分にすることは、右の申請人の地位の侵害を正当化するだけの公益上の強い必要性があり、もし行政庁が相当期間内に許可処分をしたとしても右法改正により職権によっても右許可を取消さなければならない場合を除いては、許されず、右不許可処分は違法性を帯びると解するのが相当である。これについて本件を見るに、右相当期間とは、被告が、消防法一0条四項、本政令で定める技術上の基準に適合するか否かについて、行政庁として通常要求される水準の調査、検討及び判断を踏まえて本件変更許可申請に対し応答することができる期間を指し、被告の処分の遅延は憲法が原告に保障する職業選択の自由(営業の自由)を直接侵害することを考慮すると、右期間を真に被告の必要とする限度に厳格に解すべきところ、原本の存在及び成立に争いのない甲第一八号証によれば、右相当期間は一0日ないし一五日間であることが認められ、すると、前記消防法の改正は右相当期間経過後施行されたことが認められる。また<証拠>によれば、消防庁長官は、昭和五一年七月八日、都道府県知事あてに、前記消防法改正に関する施行通達を発し、その中で、前記新設許可要件は主として、当時予想することができない特殊な危険物の貯蔵方法又は取扱方法がとられる場合に対応するためのものであること、右改正によって従来の覊束行為としての許可の性格が変更されたものではないことを示達したことが認められ、これによれば、右新設許可要件は、これを充足しない従前から存する取扱所についての許可処分を職権によっても取消さなければならないほどの公益上の強い必要性に基づくものとはとうてい言うことはできない。以上によれば、被告は新設許可要件の欠缺を不許可の理由とすることができないのであるから、右要件の充足の有無を審理することは全く不必要であり、その審理のために必要であるとしてなした隣接住民の同意書の提出要求を原告が拒絶したのは当然であり(これは、右消防法改正の前後を通じて右同意書の提出を原告に要求する法律上の根拠を欠くことからも肯首される。)、この拒絶を本件変更不許可処分の理由とすることができないことは言うまでもない。

4  被告が高砂市環境保全条例三0条一項に基づく変更許可申請書の提出を求めた点について判断するに、本件危険物給油取扱所の種類、場所及び方法を変更する前に同条による被告の許可が別途必要であるとしても、原告が消防法一一条二項に基づく本件変更許可申請をするに際し、その添付書類とされていない右条例上の変更許可申請書をも提出しなければならないという法律上の根拠はない。よって、右条例上の変更許可申請書の提出を原告が拒絶したことを本件変更不許可処分の理由とすることはできない。

よって、本件変更不許可処分は理由なく、違法である。

三次に、本件設置不許可処分の違法性について判断する。請求原因3(一)の事実(本件設置不許可処分の理由)については、当事者間に争いがない。しかしながら、右二項のとおり本件変更不許可処分は違法であるから、請求原因3(二)の主張は、正当である。

四本件不承認処分について見ると、請求原因4(一)の事実(本件不承認処分の理由)については、当事者間に争いがなく、同処分が違法であることは前三項と同じである。そして、本件不承認処分の唯一の理由がその根拠を欠くのであるから、その瑕疵は重大である。右二項のとおり、本件変更不許可処分の違法性は明白であるから、本件不承認処分の違法性もまた明白である。

五結論

よって、本件両不許可処分の取消し及び本件不承認処分の無効確認を求める本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官林 泰民 裁判官岡部 崇明 裁判官井上 薫)

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